感染管理情報

感染管理Q&A

手術部位感染について

Q 手術部位感染について質問です。
当院では、結腸と直腸のSSIサーベイランスを実施しています。JANISの判定基準により、SSiと判定しますが、切開層に発赤や疼痛が有り、創を開放した際に、明らかに膿状でないと、培養検査に出してもらえません。脂肪が溶けたものとか死腔のたまりだから出す必要がないとのことです。しかし、JANISの判定基準で判定すると、この場合SSIにカウントされるので、培養に出して何も出なければSSIにならないので、出してくださいと伝えると、皮膚の常在菌とか何かでるやろ~とのことです。私的には、皮膚の常在菌であろうが腸内細菌であろうが、何か出ればSSIになると思うのですが、何か出たからといって必ず感染ではないだろうとのことです。このDrから何が出れば感染とみなすのか、調べてくれと依頼受けましたが、調べても答えにたどりつけず、困っています。
ご教授いただけたら幸いです。
A

文面から表層切開層の手術部位感染(SSI)に関するご質問であると理解して回答いたします。回答するにあたり、下記に記した厚生労働省院内感染対策サーベイランス事業(JANIS)の「表層切開層」SSIの判定基準を参考になさってください。。

まず、培養検査についてですが、判定基準の「b.」の条件を満たすのは、創部から「無菌的」に採取した検体から病原体が分離された場合です。培養検体を提出するか否かは医師の判断に任せられるので、培養検体の提出自体はサーベイランスのために必須ではありません(もちろん、感染症の専門家が治療上必要と判断するにもかかわらず、担当診療科が提出しないということであれば、サーベイランスとは別の理由で提出を促す必要があります)。

培養検体を提出する場合は、皮膚常在菌の混入を避けるために創部をよく洗浄したうえで、浸出液や組織片を採取する必要があります。SSIの起因菌として報告されている病原体は、JANISホームページに公開されている半期報や年報に記載されていますので、参考になさってください1)

培養の提出がなされなかった場合でも、判定基準の「c.」に示された感染兆候が一つ以上あり、創部が手術医によって意図的に開放されていて、かつその他の条件を満たせば、SSIと判定されます。

また、「何か出たからといって必ず感染ではないだろう」というご意見についてですが、確かにその通りで、何かしらの微生物が検出されただけで感染と判定することはありません。サーベイランスでは判定基準に合致すれば感染と判定します。

サーベイランスは一定の判定基準に基づいて、症例を感染あり、感染なしの2群に分類する作業です。判定基準の内容は、医師が個別の患者の状態を詳細に調べ、評価して行う臨床診断と一致する部分もあれば、異なる部分もあります。一定の基準を用いた分類作業は、データの精度を高めるために重要です。あらためて、疾患定義の内容や、一定の判定基準を使用することの意義について、対象部門の職員に説明し、理解していただく必要があるのかもしれません。

厚生労働省院内感染対策サーベイランス事業 手術部位感染判定基準2)
表層切開創
定義:表層切開創 SSIは、以下の基準を満たさなければならない。
感染が、手術後 30日以内に起こる。
さらに
切開創の皮膚と皮下組織のみに及んでいる。
さらに
以下の少なくとも1つにあてはまる:
a. 表層切開創から膿性排液がある。
b. 表層切開創から無菌的に採取した液体または組織から病原体が分離される。
c. 以下の感染の徴候や症状が少なくとも1つある:疼痛、圧痛、限局性腫脹、発赤、熱感、さらに表層切開創が手術医によって意図的に開放され、培養陽性あるいは培養されなかった場合。培養陰性の場合はこの基準を満たさない。
d. 手術医または主治医による表層切開創 SSI の診断。

参考文献
  1. 厚生労働省院内感染対策サーベイランス事業 手術部位感染(SSI)部門 JANIS(一般向け)期報・年報
    http://www.nih-janis.jp/report/ssi.html
  2. 厚生労働省院内感染対策サーベイランス事業 手術部位感染(SSI)部門 手術部位感染判定基準
    http://www.nih-janis.jp/section/standard/standard_ssi_ver1.1_20081201.pdf

この質問にご回答いただいたのは

坂本史衣先生

学校法人 聖路加国際大学 聖路加国際病院 QIセンター

1991年聖路加看護大学卒業、聖路加国際病院公衆衛生看護部を経て、1997年米国コロンビア大学公衆衛生大学院卒業。聖路加国際病院看護部勤務の後、日本看護協会看護研修学校 感染管理認定看護師教育課程専任教員。2002年より現職。米国感染管理疫学資格認定機構 (CBIC)による感染制御認定資格(CIC)取得。日本環境感染学会理事、日本医療機能評価機構患者安全推進協議会感染管理部会副部会長。

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