感染管理情報

感染管理Q&A

ワクチンガイドライン / ムンプスウィルスに対する抗体検査

Q この度初めて170名ほどの職員に対して、麻疹・風疹・水痘・流行性耳下腺炎などの抗体検査を実施しました。しかしながら、ワクチンガイドラインに気づかず、外注業者にすすめられるまま、流行性耳下腺炎についてHI法を選択してしまいました。後にガイドラインを確認するとEIA法のみとなっていたため、外注業者に問い合わせると、HI法の判断基準はないといわれて困っています。実際、HI法は有用ではないのですか?EIA法での再検はコストの面からは今回は不可能だと思います。実際の検査結果は4未満、4、8と出ていますが、最低の判断基準があれば、ご教示いただければありがたいのですが・・・。
また、流行性耳下腺炎だけがEIA法のみとなっている理由は何でしょうか?参考までですがどうぞよろしくお願いいたします。
A

ムンプスウイルスに対する抗体検査にはCF法(comlement fixation test: 補体結合反応)、HI法(hemagglutination inhibition: 赤血球凝集抑制法)、NT法(neutralization test:中和法)、EIA法(enzyme immunoassay: 酵素免疫測定法)があります。しかし、日本環境感染学会の「院内感染対策としてのワクチンガイドライン」1)では、ムンプスについてはEIA法のみに「基準を満たす抗体価」が提示されています。今回のご質問は既にHI法による検査を実施したけれど、学会での基準値が提示されていないので、感染防御能の有無の判断ができないということでした。

まず、検査法の特徴について解説します。これら4つの検査法(CF法、HI法、NT法、EIA法)は最近の感染の有無を判断することには有用です。しかし、CF法は抗体が早期に消失することから感染の既往やワクチンの効果判定に用いることは出来ません。HI法は早期に抗体が上昇し、持続するので有用ですが、ムンプスのHI法は感度が低いので、NT法かEIA法で検査をすることになります。NT法は活性ウイルスを抗体により中和させて感染防御抗体を測定する検査法ですが、手技が煩雑という問題点があります。EIA法は感度が高く、定量的であることから、最近のムンプス抗体検査はEIA法が広く用いられています2)

既に、HI法で検査をしてしまったとのことですので、ここでHI法について解説を加えます。HI法の基準値は検査会社によって異なり、「8倍未満」もしくは「4倍未満」となっています。すなわち、これ以上の値を示した場合には抗体があると判断することになります。ただし、それが感染防御に十分な抗体価であるか否かは明確ではありません。しかし、もともと感度が低いHI法にて抗体が確認されたのですから、おそらく免疫はあるのではと推定はできます。

それでは、無理をしてEIA法ですべての職員を再度検査したとしましょう。その結果、検査データが「EIA法(IgG)陽性」を示せば「基準を満たす」(環境感染学会ガイドライン)ということになります。しかし、「EIA法(IgG)陰性」であっても感染防御レベルの免疫を獲得していることがあるので、EIA法といっても完全な検査法ではないのです。ワクチンを接種したにも拘わらず防御レベルの抗体価が獲得できないことがありますが、ウイルスへの感染防御能がないとは言い切れないのです。抗体価は液性免疫を測定しているのであって、細胞性免疫については測定できないからです。

1回のワクチン接種にて抗体を獲得できない人には2回目を接種します。それにも拘わらず抗体が獲得できないことがあります。このような場合、3回目を接種するのかというとそうではありません。CDCは「ムンプスについては、ワクチンの2回接種の記録のある医療従事者が血清学的に検査され、ムンプスの抗体価が陰性もしくは確定的ではない場合には追加接種は推奨しない。そのような人はムンプスの免疫のエビデンスがあるとして考えるべきでる」としているからです3)。従って、「HI法で検査をしてしまったので、EIA法で検査をやり直す」という費用があるならば、ムンプスワクチンの接種に費用を向けた方がよろしいと思います。ムンプスワクチンは2回接種すれば免疫のエビデンスがあるとして考えてもよいからです。

参考文献
  1. 日本環境感染学会 「院内感染対策としてのワクチンガイドライン」環境感染誌 Vol. 24 Supplement, 2009
  2. 岡部信彦、多屋馨子 予防接種に関するQ&A集(平成25年) 日本ワクチン産業協会 教育広報社
  3. CDC. Prevention of measles, rubella, congenital rubella syndrome, and mumps, 2013. http://www.cdc.gov/mmwr/pdf/rr/rr6204.pdf

この質問にご回答いただいたのは

矢野邦夫先生

浜松医療センター 副院長 兼 感染症科長

1981年名古屋大学医学部卒業、名古屋掖済会病院、名古屋第二赤十字病院、名古屋大学病院を経て米国フレッドハッチンソン癌研究所留学。帰国後、浜松医療センター。同院在籍中、ワシントン州立大学感染症科にてエイズ臨床短期留学、米国エイズトレーニングセンター臨床研修終了。2008年より同院副院長。医学博士、ICD、感染症専門医、血液専門医、内科認定医、藤田保健衛生大学客員教授、浜松医科大学臨床教授。

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