感染管理情報

感染管理Q&A

インラインフィルターについて

Q 緩和ケア病棟においてCVを挿入中の患者がいますが、夜間はロックとしているようです。この為、毎回ルート(フィルター付き)を交換しています。コストがかかることと、CDCではインラインフィルターを推奨していないこともあり、フィルターを使用していないものに変更してよいか?と質問を受けました。感染・安全面のことを総合的に考えると、現状通りに毎回フィルター付きルートにすることを続けたほうがよいと思うのですが、フィルターも賛否両論あり悩んでいます。アドバイスをいただけますでしょうか?
A

ご存じのとおり、国内ではインラインフィルターについて様々な議論があります。

米国疾病対策センター(CDC)の「血管内カテーテル由来血流感染予防のためのガイドライン」を見ると、2002年版には感染予防目的でインラインフィルターを日常的に使用しないという勧告がありましたが、2011年版からはインラインフィルターに関する記述自体が消えました1)。米国では、薬局で無菌的に点滴薬剤の調製を行うことが多く、その際に輸液をろ過する作業も行われることから、インラインフィルターを使う特段の理由がないことが背景にあると推察します。

輸液看護師学会(INS)が2011年に出版した輸液看護実践基準では、インラインフィルターを使用する場合の原則が述べられていますが、使用すべきか否かに関する勧告はありません2)

また2007年に公開されたイギリスのガイドラインでも、インラインフィルターの日常的な使用は推奨されていません3)。その理由としては、(1)インラインフィルターは一部の薬品で目詰まりを起こすため、輸液ラインを操作する回数が増えると同時に、薬効を減少させること、(2)システマティックレビューを行ったが、インラインフィルターが輸液関連血流感染予防に有効であることを示す質の高いエビデンスが見当たらなかったことなどを上げています。

国内では、病棟で輸液を調剤する場面が多いことから、インラインフィルターの使用を強く推奨する専門家もいますが、コンセンサスは得られていません。以下にインラインフィルター(孔径0.2μm)の利点と課題をまとめました。参考にしていただき、使用を継続するかどうか決定していただければと思います。それと同時に、血流感染予防の有効性についてより強い科学的根拠のある対策にも目を向け、これらが確実に実施されていることを確認することが重要だと思います。

インラインフィルターの利点

  • 輸液に関連した静脈炎の発生率を低減させる
  • 輸液中の細菌、細菌が産生するエンドトキシン、異物(アルコール綿の綿、アンプルのガラス片、バイアルのゴム片等)、薬剤の配合変化等で生じた沈殿物を補足し、空気塞栓を防止する
  • Candida albicans(カンジダ)は仮性菌糸を伸ばすので、0.2μmのフィルターを通過することが指摘されていたが4)、流出側の膜の孔径が流入側に比べて小さい非対象膜を使用している製品では、通過しないという報告がある5)

インラインフィルターの課題

  • 目詰まりを起こしたり、吸着するためにフィルターに通せない薬剤がある。そのため:
    • これらの薬剤は、フィルター下流から投与せねばならず、フィルターを使う意義が薄れる
    • 臨床現場でフィルターを通してよい薬剤と通してはいけない薬剤を区別せねばならず、業務が煩雑になり、誤薬(フィルターを通してはいけない薬剤をフィルターに通す)の原因となり得る
  • インラインフィルターは輸液中の細菌を除去するが、輸液の細菌汚染が原因となる血流感染は稀である
  • インラインフィルターが輸液関連血流感染を予防したという明確なデータはない
  • コストがかかる
参考文献
  1. CDC:2011 Guidelines for the Prevention of Intravascular Catheter-Related Infections http://www.cdc.gov/hicpac/BSI/BSI-guidelines-2011.html
  2. R.J. Pratt, C.M. Pellowe, J.A. Wilson, et al:epic2:National Evidence-Based Guidelines for Preventing Healthcare-Associated Infections in NHS Hospitals in England. Journal of Hospital Infection 2007;65S:S1-S64.
  3. Infusion Nurses Society. Infusion Nursing Standards of Practice. Journal of Infusion Nursing 2011;34(1S):S1-S110.
  4. 谷徹、岡利一郎、角田富士男ほか.IVH時使用する0.2μmフィルターの真菌通過性の問題点. 医学のあゆみ 122:121-123、1982.
  5. 井上善文、石井一成.0.2μm輸液フィルターのCandida albicans 除去能に関する実験的検討.外科と代謝・栄養40:229-237、2006.

この質問にご回答いただいたのは

坂本史衣先生

学校法人 聖路加国際大学 聖路加国際病院 QIセンター

1991年聖路加看護大学卒業、聖路加国際病院公衆衛生看護部を経て、1997年米国コロンビア大学公衆衛生大学院卒業。聖路加国際病院看護部勤務の後、日本看護協会看護研修学校 感染管理認定看護師教育課程専任教員。2002年より現職。米国感染管理疫学資格認定機構 (CBIC)による感染制御認定資格(CIC)取得。日本環境感染学会理事、日本医療機能評価機構患者安全推進協議会感染管理部会副部会長。

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