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ASP感染管理のQ&A | ASP Japan合同会社

水痘など抗体価

入院63床、透析患者625人の中小規模の病院で認定看護師はもっていませんが、診療報酬感染対策加算2の関係で、急遽感染管理実践者へ就任し、右も左もわからないだらけの困惑した日々を送っています。当院は今年から新採用時に麻疹・風疹の抗体価検査を実施と、今年のみ職員健診(6月)で上記抗体価検査を行うことになっています。来年は水痘・ムンプスを予定しておりますが、今回の陰性者には任意でワクチン接種2回(1/3自己負担)を推奨する予定です。そこで今回の陽性者は、今年以降の抗体価チェックは必要なのか?必要ではない?かが問題となっています。職員の年齢も20〜50代と幅広く、いつ頃抗体価がなくなるのか?など文献や資料を探しても明確な回答を得ることができず検討がつかない状況のため質問させて頂きました。毎年検査できれば一番良いとは思いますが、費用の問題もあり難しく思っています。宜しくお願い致します。

 

水痘・麻疹・風疹・ムンプスは極めて感染力が強いことが知られています。その一つの指標として、基礎再生産率(basic reproductive number: R0 )があり、これは「1人の感染者が、誰も免疫を持たない集団に加わったとき、平均して何人に直接感染させるかという人数」を意味しています。毎年冬になると流行するインフルエンザは感染力が強烈なのですが、実はR0 をみてみると、インフルエンザ(R0 =1.71〜2.0(1,2)よりも、ムンプス(R0 =4〜7)(3)、麻疹(R0 =12〜18)(3)、水痘(R0 =10〜12)(4)、風疹(R0 =6〜7)(5)の方がもっと感染力が強いのです。そのようなことから、これらの感染症の抗体価の測定およびワクチン接種が強く推奨されているのです。現在、日本環境感染学会が「院内感染対策としてのワクチンガイドライン」(6)を公開しており、医療従事者が保持しているべき抗体価を明記しています。そして、多くの医療機関がこのガイドラインを参考にして感染対策を実施しているものと思われます。

今回のご質問は、「十分な抗体価を保持している医療従事者が今後はどのくらいの頻度で再検査すべきなのか?」というものです。質問の背景としては、抗体価は年月の経過とともに低下してゆき、これらのウイルスに感受性を持つようになってしまうことが心配されるからです。

実は、この質問に対する明確な回答はありません。抗体価の低下の速度には個人差がありますし、また、高い抗体価を持っている人と低い抗体価の人での抗体測定の間隔を統一することはできません。さらに、医療従事者が何らかの疾患を合併したり、その治療のために副腎ステロイドホルモンや透析などによる治療が必要になれば、抗体価は急速に低下してゆきます。

それでは念のために毎年、すべての医療従事者の抗体検査を実施することにすれば、高い抗体価を持っている人にも毎年検査することになり、経済的には大変不利な状況となります。感染対策は抗体検査のみではありません。血管カテーテルや尿道カテーテルの管理、結核対策、インフルエンザ対策など数限りない感染対策を実施してゆく必要があり、それにも経済的な負担が必要です。

また、殆どの人がワクチンを接種しているような集団であっても、集団感染が発生することがあります。実際、ニューヨークのサマーキャンプでムンプスの大規模な集団発生があったときは、参加者の殆どがワクチンの接種を受けていました(7)

理想的には抗体価を毎年測定して(経済性を顧みず)、その抗体価に応じて、ワクチンを接種してゆくのがベストかもしれません。しかし、そのような徹底的な対策を実施したとしてもすべての医療従事者を感染から完全に防御することはできないと思います。従って、経済性やマンパワーを考えて、次善の策を講じることになります。すなわち、3年毎、5年毎といった対応を各施設で設定するのがよろしいかと思います。

感染対策を実施している立場からすると、すべての医療従事者に1回の検査を行うことすら至難の業と思います。そして、それを毎年実施することは極めて困難なのです。従って、3〜5年毎という期間を設定したとしても、それは大変優れた感染対策になると思います。

参考文献
  1. Wu JT. School closure and mitigation of pandemic (H1N1) 2009, Hong Kong
    http://www.cdc.gov/eid/content/16/3/pdfs/09-1216.pdf
  2. Zimmer SM. Historical perspective - Emergence of influenza A (H1N1) viruses. N Engl J Med 2009;361:279-85
  3. CDC. History and epidemiology of global smallpox eradication
    http://www.bt.cdc.gov/agent/smallpox/training/overview/pdf/eradicationhistory.pdf
  4. Tang JW, et al. Factors involved in the aerosol transmission if infection and control of ventilation in healthcare premises. J Hosp Infect 2006, 64, 100-114
  5. UC Berkeley School of Public Health. Concepts for the prevention and control of microbial threats - 2
    http://www.idready.org/slides/01epiconceptsII-notes.pdf
  6. 日本環境感染学会. 院内感染対策としてのワクチンガイドライン
    http://www.kankyokansen.org/modules/publication/index.php?content_id=4
  7. CDC. Update: Mumps outbreak - New York and New Jersey, June 2009-January 2010.
    http://www.cdc.gov/mmwr/PDF/wk/mm5905.pdf

この質問に回答いただいたのは・・・

矢野邦夫先生

浜松医療センター 副院長 兼 感染症科長

1981年名古屋大学医学部卒業、名古屋掖済会病院、名古屋第二赤十字病院、名古屋大学病院を経て米国フレッドハッチンソン癌研究所留学。帰国後、浜松医療センター。同院在籍中、ワシントン州立大学感染症科にてエイズ臨床短期留学、米国エイズトレーニングセンター臨床研修終了。2008年より同院副院長。医学博士、ICD、感染症専門医、血液専門医、内科認定医、藤田保健衛生大学客員教授、浜松医科大学臨床教授。

聖路加国際病院 医療安全管理室 インフェクション・コントロール・プラクティショナー 坂本史衣先生