耳鼻咽喉科における内視鏡の洗浄消毒| 学習ページ | ASP Japan合同会社

耳鼻咽喉科における洗浄消毒

耳鼻咽喉科の診療では、感染症を頻繁に扱いながら内視鏡などの侵襲的な検査や無菌的な外科的処置が行われます。その対象は気管や中耳、内耳など無菌的環境と口腔や鼻腔、皮膚など汚染した環境が混在しているため、洗浄・消毒が不十分な内視鏡の使用が、感染の原因となる恐れがあります。

内視鏡消毒の歴史

ガストロカメラ

1970年以前

本邦では、胃カメラ(ガストロカメラ)が発明された1950年以降、内視鏡の技術は目覚ましい進歩・発展を遂げました。しかし、内視鏡診療における感染管理という概念はなく、内視鏡機器の再生処理は当時行われていた予防接種の注射針の使い回しと同様に、使用後は表面をガーゼやアルコール綿で清拭する程度で次の被験者に使用されました。

また、当時のスコープの操作部は防水機能がなくスコープ全体を浸漬することができなかったこともあり、ヘリコバクター・ピロリ(H. Pylori)の感染事故が生じるまでは内視鏡機器の消毒についての関心は薄く、内視鏡機器の洗浄・消毒に関する取り組みでは諸外国の後塵を拝する結果となりました。

スコープのブラッシング

1970~80年代

米国では、内視鏡が普及し始めた1970年に入ってから内視鏡機器の消毒について関心がもたれ、1974年には米国消化器内視鏡学会で内視鏡を介した感染事故が初めて報告されました1)。1970年代後半~1980年代には、腸管に感染しやすいサルモネラ属や逆行性胆道膵管造影で感染しやすい緑膿菌による内視鏡感染事故の報告がありました2-4)

1988年には欧米で軟性内視鏡の洗浄・消毒に関するガイドラインが作成され、スコープは一回使用ごとにチャンネル内のブラッシングを含む十分な洗浄と、高水準消毒が推奨されました5, 6)

1) Silvis SE et al. JAMA 1976; 235: 928-30.
2) Greene WH et al. Gastroenterology 1974; 67: 912-9.
3) Tuffnel PG. Can Publ Health 1976; 67:141-2.
4) Earnshaw JJ et al. J Hosp Infect 1985; 6: 95-7.
5) Infection Control during gastrointestinal endoscopy: Guideline for clinical application.
Gastrointest Endosc 1988; 34: S37-40.
6) Cleaning and infection of equipment for gastrointestinal flexible endoscopy: interim
recommendations of a Working Party of the British Society of gastroenterology. Gut 1988; 29:
1134-51.

内視鏡洗浄室の例

1990年代

本邦では、上部消化管内視鏡後に発生する 急性胃粘膜病変の原因が内視鏡を介したH. Pylori感染であることが明らかとなり、欧米に10年遅れて1998年に「消化器内視鏡機器洗浄・消毒法ガイドライン」が作成されました 7)。当時は 「再生処理に時間がかかり、内視鏡件数を縮小せざるを得ない」「ガイドラインの内容が厳しすぎて現実的ではない」といった批判が多く寄せられました。

7) 日本消化器内視鏡学会消毒委員会「消化器内視鏡機器洗浄・消毒法ガイドライン」Gastroenterol Endosc 1998; 40: 2022-34.

manual-cleaning

2000年代

2000年代になると、多くの施設で「スコープや自動洗浄器の数を増やす」「短時間の浸漬で高水準消毒が可能なフタラールなどの導入」「スコープの再生処理を行う専従スタッフの配置」などの努力により、ガイドラインを遵守したスコープの再生処理が一般に広く行われるようになりました。

先進国では内視鏡機器消毒法ガイドラインが整備されてきました。後進国にも内視鏡診療における感染管理の概念が十分に浸透されることを目的とし、また内視鏡手技に関しても一定のスタンダードが必要であるとの考えのもと、2005年に世界消化器内視鏡学会(OMED)と世界消化器病学会(WGO)により、 「実践ガイドライン-内視鏡の洗浄消毒」が作成されました8)

8) Rey J et al. WGO-OMGE/OMED Practice Guideline: Endoscope Disinfection. 2005
9) Kovaleva J et al. Clin Microbiol Rev 2013; 26: 231-54.

日本耳鼻咽喉科学会編「耳鼻咽喉科内視鏡の感染制御に関する手引き」

耳鼻咽喉科診療では内視鏡の使用頻度は極めて高く、実状に沿った感染制御ガイドラインの作成のため日本耳鼻咽喉科学会では2013年に「耳鼻咽喉科診療機器の感染制御ワーキンググループ」を立ち上げ、耳鼻咽喉科内視鏡の洗浄・消毒方法の周知と徹底を目的に2016年に「耳鼻咽喉科内視鏡の感染制御に関する手引き」を刊行しました10)

10) 日本耳鼻咽喉科学会「耳鼻咽喉科内視鏡の感染制御に関する手引き」2016

耳鼻咽喉科内視鏡の感染制御に関する手引き > 

「耳鼻咽喉科内視鏡の感染制御に関する手引き」の基本理念(抜粋)のまとめ

4.3 内視鏡の消毒は十分な洗浄の後に行う

  • 内視鏡の効果的な洗浄・消毒のためには、消毒前に十分に洗浄し内視鏡に付着した微生物数を可能な限り減少させる(洗浄前に消毒を行うと、血液や体液等のタンパク質が固化し、その後洗浄を行っても除去しにくくなる)
  • 安全かつ効果的な消毒を行うために、高水準消毒薬の特徴を十分に理解する
  • 洗浄・消毒は原則的に操作部・コネクタ部を含む内視鏡全体に対して行い、内視鏡の洗浄・消毒液への全浸漬が推奨される

5.3 消毒

  • 医療器具を使用用途ごとに分けたスポルディングの分類で、耳鼻咽喉科内視鏡は消化器内視鏡と同様に粘膜または健常でない皮膚に接触するセミクリティカル器具に分類される
  • セミクリティカル器具には高水準消毒が望ましいとされ、耳鼻咽喉科内視鏡も高水準消毒薬であるフタラール、過酢酸、グルタラールを用いる
  • フタラール、過酢酸については、人体への消毒薬暴露軽減の観点から、内視鏡自動洗浄・消毒装置の使用が望ましい

耳鼻咽喉科における洗浄・消毒の現状

figure1

耳鼻咽喉科領域における内視鏡感染制御管理状況の実態調査によると、内視鏡使用後の消毒前洗浄については、水洗いを行っていると答えた施設は、病院で 79.5%、診療所で 86.5%、さらに酵素洗浄剤で前洗浄を行っていると答えた施設は、病院で47.7%、診療所で 6.0%でした。

また、洗浄消毒時の自動機器使用については、自動機器を使用していると答えた施設の割合は病院が68.2%、診療所が 42.9%で、その内訳は病院において自動消毒器が 43.2%、自動洗浄消毒器が 25.0%、診療所において自動消毒器が 42.1%、自動洗浄消毒器が0.8%でした11)

11) 宮本 他 耳鼻感染症・エアロゾル 2015; 3(1): 46-50.

参考文献
参考資料:内視鏡 洗浄・消毒における各種学会の主なガイドライン
消化器科: 1998『消化器内視鏡機器洗浄・消毒法ガイドライン』  日本消化器内視鏡学会
2008『消化器内視鏡の洗浄・消毒マルチソサエティガイドライン(第1版)』 日本消化器内視鏡学会※1
2013 『消化器内視鏡の洗浄・消毒マルチソサエティガイドライン(改訂版)』日本消化器内視鏡学会※1
2018『消化器内視鏡の洗浄・消毒標準化にむけたガイドライン』日本消化器内視鏡学会 
                
呼吸器科: 2005 手引き書『気管支鏡検査を安全に行うために』※2日本呼吸器内視鏡学会
泌尿器科: 2009『泌尿器科領域における感染制御ガイドライン』日本泌尿器科学会
耳鼻咽喉科: 2016『耳鼻咽喉科内視鏡の感染制御に関する手引き』日本耳鼻咽喉科学会

※1 日本環境感染学会・日本消化器内視鏡技師会と合同で作成
※2 2010年に第2版、2013年第3版、2017年に第4版へ改訂

ASP内視鏡洗浄消毒器 導入事例(朝日大学病院様)

耳鼻咽喉科のためのお役立ち情報

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内視鏡洗浄消毒器による高水準消毒

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