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ASP感染管理のQ&A | ASP Japan合同会社

脊髄穿刺時のPPE着用について

CVC留置はCDCガイドラインや院内のマニュアルでもPPE着用を記載しています。院内で頻繁に医師が処置をしている骨髄穿刺・生検、腹水穿刺、胸腔穿刺、等々は標準予防策でいえば手袋だけですが、2007年にCDCによって脊髄穿刺時のマスク着用が指摘されています。
恐らく本院で決定するべきことですが、他病院ではどのような考え方で、どこまでPPEの着用をマニュアルに入れているのでしょうか?ご教示をお願い致します。

 

標準予防策において、どのような場合にPPEを着用するのかというのはケースバイケースとなります。標準予防策を実施するためには、医療従事者が「これからどのような医療行為を実施するのか?」「その医療行為によってどのような血液・体液曝露が発生しうるのか?」を予測しなければなりません。そして、その予測によって標準予防策で実施すべき対応が異なってきます。例えば、血管穿刺では、手袋のみで十分ですが、挿管では、手袋、ガウン、フェースシールドまたはマスクとゴーグルが必要となります。このように「実施する医療行為」と「発生しうる血液・体液曝露」を予測しなければならないので、標準予防策は臨床現場での経験の少ない医療従事者には大変難しい感染対策といえます。

ご指摘の腰椎穿刺処置における外科用マスクの装着の勧告は新しいエビデンスがでたためにCDCが勧告したものです。その背景を紹介します。

2004年、CDCは8件のミエログラフィー後の髄膜炎を調査しました。すると全症例の血液や髄液から口腔咽頭細菌叢にみられる連鎖球菌属が検出されたのです。腰椎穿刺処置の記録によると、皮膚消毒薬および滅菌手袋は確実に用いられていました。また、これらの処置で用いられた器具や器材(造影剤など)が汚染源である可能性もありませんでした。しかし、医師のだれもが、マスクをしていなかったので、口腔咽頭の細菌叢の飛沫感染がこれらの感染を引き起こした可能性が高いと判断されたのです。このような腰椎処置(ミエログラム、腰椎穿刺、脊椎麻酔および硬膜外麻酔、髄腔内化学療法など)に引き続く細菌性髄膜炎は過去にも報告されています(2〜5)。例えば、5人の女性が分娩時の脊椎麻酔後に髄膜炎を発症し、1人が死亡したという報告があります(5)。これら5人のなかの4人においてStreptococcus salivarius(ヒトの口腔、咽喉、および鼻咽腔中に見出される連鎖球菌であり、「唾液連鎖球菌」ともいわれます)が髄膜炎の原因菌であることが確認されました。すべての患者は麻酔をしてから24時間以内に髄膜炎を発症しました。S.salivariusなどのビリダンス群レンサ球菌は正常口腔細菌叢の微生物です。これらは脊椎処置後の髄膜炎において最も頻回に同定される原因菌であり、49〜60%を占めているとの報告もあります。外科用マスクは口腔咽頭飛沫の散布を防ぐことができるので、今後は脊髄内または硬膜外にカテーテルを挿入するか薬剤を注入する人は外科用マスクを装着するようにCDCは勧告したのです。

ここで強調したいことは、CDCは「腰椎穿刺による髄腔内または硬膜外へのカテーテル挿入や薬剤注入時のマスク装着」を推奨しているのであって(1)、決して「腰椎穿刺するときのマスク装着」を推奨しているのではありません。従って、髄液採取のような腰椎穿刺のみの場合にはマスクは必ずしも装着する必要がないことになります。しかし、医療従事者すべての感染対策を徹底するとき、脊椎処置において「カテーテルを留置したり、薬剤を注射するとき」にはマスクを装着するが、それ以外のときには必ずしも装着は必要ないということを遵守することは難しいと思います。従って、院内感染対策マニュアルを作成するときには「すべての脊椎処置においてマスクを装着すること」と記載しても構わないと考えます。以上、ご参考になれば幸いです。

参考文献
  1. CDC. Guideline for isolation precautions: Preventing transmission of infectious agents in healthcare settings, 2007 .
    http://www.cdc.gov/hicpac/pdf/isolation/Isolation2007.pdf
  2. Yaniv LG, et al. Iatrogenic meningitis: an increasing role for resistant viridans streptococci? Case report and review of the last 20 years. Scand J Infect Dis 2000;32:693-6.
  3. Couzigou C, et al. Iatrogenic Streptococcus salivarius meningitis after spinal anaesthesia: need for strict application of standard precautions. J Hosp Infect 2003;53:313-4.
  4. Trautmann M, et al. Three cases of bacterial meningitis after spinal and epidural anesthesia. Eur J Clin Microbiol Infect Dis 2002;21:43-5.
  5. CDC. Bacterial meningitis after intrapartum spinal anesthesia --- New York and Ohio, 2008-2009.
    http://www.cdc.gov/mmwr/preview/mmwrhtml/mm5903a1.htm

この質問に回答いただいたのは・・・

矢野邦夫先生

浜松医療センター 副院長 兼 感染症科長

1981年名古屋大学医学部卒業、名古屋掖済会病院、名古屋第二赤十字病院、名古屋大学病院を経て米国フレッドハッチンソン癌研究所留学。帰国後、浜松医療センター。同院在籍中、ワシントン州立大学感染症科にてエイズ臨床短期留学、米国エイズトレーニングセンター臨床研修終了。2008年より同院副院長。医学博士、ICD、感染症専門医、血液専門医、内科認定医、藤田保健衛生大学客員教授、浜松医科大学臨床教授。

聖路加国際病院 医療安全管理室 インフェクション・コントロール・プラクティショナー 坂本史衣先生