感染管理情報

感染管理Q&A

注射準備の際の未滅菌グローブ着用について

Q 注射準備の際に未滅菌グローブを着用するのが良いとされていますが本当にそうなのでしょうか。スタッフから「グローブの上からアルコール消毒した方がいいのでは?」という意見がありました。それに関してはアルコールでのグローブ破損の恐れがあるのでやめてもらいました。消毒した素手よりグローブの方が清潔なのでしょうか。防護具としてではなく清潔を保つ意味での未滅菌グローブ使用を推奨している文献がありましたら(「医療現場における手指衛生のためのCDCガイドライン」のグローブ着用の方針2)医療職員の細菌叢が患者に伝播するのを防ぐ、以外で)教えていただけませんか。また、着用が必要だとしたらどのタイミングで交換でしょうか。複数患者分を一度に準備しますので、1本準備ごとか、患者1人分ごとでしょうか。
A

「薬剤の清潔を保つ意味でのグローブ使用」を推奨しているガイドラインとしては米国医療薬剤師協会(ASHP: American Society of health system pharmacists)が2000年に公開した「薬局調整の滅菌製剤のための質保障のためのASHPガイドライン」があります(1)。これは薬局での調剤についてのガイドラインですが、日本では病棟でも薬剤を調整しているので、参考になると思います。

このガイドラインのなかで、「清潔を保つ意味でのグローブ使用」について言及している部分を抜き出しますと「例え、滅菌グローブが使用されたとしても、無菌的に調合するときの滅菌を保つことはできない。しかし、手指消毒した手から剥がれ落ちてくる細菌、皮膚、そのほかの物質を封じ込めることには有効である」と記載されています。すなわち、消毒した素手よりグローブの方が清潔なのです。

ここで、1つ興味深い記述を紹介しますと、「無菌製剤の調整中はグローブを適切な薬剤(70%イソプロピルアルコールなど)にて頻回にリンスすべきであり、完全性に問題があるときには(穴が開いた、引き裂かれたなど)交換する」というものがあります。日常の病棟業務でグローブの上からアルコール手指消毒するとグローブ破損の恐れがあるので決しておこなってはならない行為です。しかし、そのようなことが米国の薬局では推奨されているのです。その理由についての記述はなされていませんが、調剤室ではグローブの完全性を常に目視で確認することができることと、患者の身体に直接触れることはないことが関係しているのかもしれません。しかし、病棟での薬剤調整のときにグローブの上からアルコール手指消毒を許可してしまうと、患者ケアのときのグローブでも同じことがなされてしまうので、やはり、病棟ではグローブの上からのアルコール手指消毒は禁止しておいたほうがよいと思います。

グローブ着用のタイミングですが、これは数人分をまとめて調合してから交換すればよいと思います。このガイドラインでも「クリーンルームを立ち去るときにグローブを廃棄して、再度入室するときには新しいグローブを装着する」と記載されており、一連の調剤業務を同じグローブでおこなうよう記載されています。個々の患者に触れることがなく、患者が持っている細菌叢にグローブが汚染することはないからと思います。

このガイドラインでは、グローブを装着しながらの手指消毒が推奨されていることから、グローブについては滅菌であることを前提としているようです。そのため、未滅菌グローブについての記述はありません。現在の日本の病院のナースステーションでおこなわれている調剤において滅菌グローブを悉く使用することは困難と思います。しかし、患者の血管内に投与される薬剤の無菌性を保証しなければならないことから、滅菌グローブでの調剤が病棟でも求められる日が来るであろうと推測いたします。

参考文献
  1. ASHP Guidelines on quality assurance for pharmacy-prepared sterile products. Am J Health Syst Pharm June 1, 2000 57:1150-1169 or  http://www.ashp.org/DocLibrary/BestPractices/PrepGdlQualAssurSterile.aspx (2013年7月3日検索)

この質問にご回答いただいたのは

矢野邦夫先生

浜松医療センター 副院長 兼 感染症科長

1981年名古屋大学医学部卒業、名古屋掖済会病院、名古屋第二赤十字病院、名古屋大学病院を経て米国フレッドハッチンソン癌研究所留学。帰国後、浜松医療センター。同院在籍中、ワシントン州立大学感染症科にてエイズ臨床短期留学、米国エイズトレーニングセンター臨床研修終了。2008年より同院副院長。医学博士、ICD、感染症専門医、血液専門医、内科認定医、藤田保健衛生大学客員教授、浜松医科大学臨床教授。

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