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ファクターXはまさかの「あの食べ物」?〜あなたの冷蔵庫にあるかもしれない〜 |学習ブログ|ASP Japan合同会社

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「ファクターX」とは何だったのか?

2020年、日本では他国に比べて、新型コロナウイルスの感染者が少なかったことを記憶されている方も多いでしょう。その当時、理由として「ファクターX」があるのではという話があがりました*1。

ある研究グループが日本人は新型コロナウイルスに感染しにくい遺伝子を持っている可能性を追求していましたが、決定打となる答えは出ず、結局日本人の潔癖な習慣によるのではないかという考え方が一般的になりました。そして、2021年の第5波は日本でも多くの感染者を出したことで、いつしかファクターXは忘れ去られた感さえあります。

しかし今回は、誰でも手軽に手に入るあの食べ物がファクターXの一つなのかもしれない、というテーマでお話ししていきます。

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日本の伝統食品に含まれていた期待の成分

納豆などの発酵食品が免疫力を上げる、という話はよく耳にします。発酵食品には豊富な栄養素が含まれているので免疫細胞を活性化するということは理にかなっています。

もっともよく食べられている食品が免疫力を上げていないなら、私たちは何のために食事をしているかわからなくなってしまいますね。発酵食品の種類が豊富な国では新型コロナウイルスの感染者数が少ないという単純な説を唱える人もいましたが、疫学的な調査ではそのような結果は出ていません。

2021年の春から秋にかけては多くの国で感染者が激増したので、もはやこの説は正しいとは言えなくなりました。その一方で、お茶に含まれるカテキンや、納豆にも含まれるアミノ酸“5-アミノレブリン酸(5-ALA)”が新型コロナウイルスの感染や細胞内での増殖を抑えるという論文が報告されました*2。

このような日本の伝統的な食品には『ウイルスをやっつける作用があるらしい』ということがわかってきたのです。

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ワクチン接種までの1年間を乗り切れ

ところで、世界的な規模の感染症はあらゆる分野にイノベーションを起こします。新型コロナウイルスではワクチン開発にイノベーションが起こりました。

2019年12月に中国の武漢市ではじめて感染者が報告されてから1年以内にワクチンが開発され、治験を終了し、接種が始まりました。通常のワクチンは開発から接種まで5年から10年くらいを必要とします。さらに今回はmRNAワクチンも登場しました。

しかし、2021年5月初旬に1日あたり40万人もの感染者を出したインドでは、デルタ株という強力な変異株を生んでしまいました。その後、デルタ株は世界的に蔓延し、現行のワクチンの効果が約70%まで落ちているといわれています。

ウイルスは感染者数が増加すると変異株が出現しやすくなります。おおよそ100万人の感染者を出した国から新たな変異株が出現すると考えられるのです。野生動物の中には85万種類もの人獣共通感染症が眠っているという報告があるので、新型コロナウイルスの流行が終息しても私たちは次の新興ウイルス感染症の出現に備えなければなりません。

その時、ワクチンが開発されるまでの1年間に変異株を出現させないためにも、感染者数を抑える対策が必要になります。

一方、ゾンビウイルスは全身の臓器を破壊すると考えられますので、抗体は産生されるはずですが、免疫細胞も死に絶えて抗体は産生されなくなると考えた方がよいでしょう。思いつきですが、ゾンビウイルスの最初の標的となる細胞は免疫細胞(T細胞やB細胞など)ではないでしょうか。これらの細胞を完全に破壊することにより血流に乗ったウイルスは免疫の攻撃を受けることなく全身の細胞に感染するのかもしれません。

納豆に含まれる分解酵素が新型コロナウイルス表面のスパイク蛋白を分解

そんなことを考えながら、著者の所属する東京農工大学農学部 感染症未来疫学研究センターでは、普段口にする食品中に含まれる抗ウイルス機能物質を探索する研究を始めました。そこで目を付けたのが日本の伝統食品の納豆です。納豆菌は、80種類以上の蛋白質分解酵素(プロテアーゼ)を作り大豆を納豆にします。

80種類以上のプロテアーゼがあるのなら、どれかひとつくらいは新型コロナウイルスを分解するのではないか、と考えたのがきっかけです。「おかめ納豆」でおなじみのタカノフーズ株式会社と宮崎大学との共同研究で、S-903という納豆の抽出液を作り、新型コロナウイルス表面のスパイク蛋白質*3と混ぜて37℃で1時間反応させると、スパイク蛋白質がバラバラに分解されることがわかりました。

次に、生きた新型コロナウイルスと納豆抽出液を反応させると、培養細胞への感染が完全に阻止されました。つまり、新型コロナウイルス表面のスパイク蛋白質が分解されたので、新型コロナウイルスが細胞表面に結合できなくなったのです。

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納豆をファクターXにする

この結果をまとめて国際誌に投稿しました*4。日本では新聞、雑誌をはじめとする各種のメディアが紹介してくださり、海外ではThe TimesやForbesを含む80以上のウェブサイトで紹介記事が載りました。

私たちはまだ臨床試験を行っていないので、あくまでも研究段階として発表していますが、新型コロナウイルスを乗り切るための手段としての期待が大きいことがわかりました。納豆がファクターXなのかはわかりません。少なくとも第5波は多数の感染者を出してしまいましたのでファクターXではないでしょう。

しかし、納豆の抗ウイルス機能を意識することにより今後ファクターXになりうる可能性があります。そうです、私たちは新型コロナウイルスに立ち向かうためにファクターXという手段を探索して、積極的に取り入れることにより乗り切ることができるのです。

これからは新型コロナウイルスを怖れるのではなく、立ち向かうことが明るい未来を切り開くことになるのです。

私たちもそんな風にお役に立てることを目標に研究を続けています。

 

*1:山中伸弥教授が命名、仮説を唱えた言葉。日本における、人々の衛生観念・習慣、身体接触の少ない生活文化、公衆衛生政策、自主的な感染症対策、何らかの交差免疫、そして日本人の遺伝的要因などが挙げられていた。
*2:5-amino levulinic acid inhibits SARS-CoV-2 infection in vitro. Biochem Biophys Res Commun. 2021 Mar 19;545:203-207
*3:試薬として市販されているもの
*4:Natto extract, a Japanese fermented soybean food, directly inhibits viral infections including SARS-CoV-2 in vitro. Biochem Biophys Res Commun. 2021 Sep 17;570:21-25

 

 
水谷哲也
東京農工大学農学部附属 感染症未来疫学研究センター 
センター長・教授 獣医師・博士(獣医学)

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