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新型コロナの流行時には内視鏡検査ができない!?|学習ブログ|ASP Japan合同会社

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内視鏡検査と新型コロナウイルス

この文章を執筆している2022年5月中旬の日本は、新型コロナウイルスのオミクロン株による第6波が下げ止まらず、果たして第7波に向かうのか、それともおさまっていくのかわからない状態です。

毎日、2万~4万人の新規感染者が出ています。オミクロン株はこれまでの変異株に比べると病原性は低く、感染力は強いといわれています。

このような感染者が多いウイルス感染症の流行時に、内視鏡検査の現場はどのような対応をとるべきかについて、新型コロナウイルス感染症を例にウイルス学と感染症学の立場からご説明していきます。

ガスに気をつけろ

 

防護服を着用した2名が患者1名に対して内視鏡検査を行っている様子
 

新型コロナウイルス感染症による緊急事態宣言下においては、緊急の検査や治療の目的ではない消化器内視鏡検査については延期することが推奨されてきました*1。

その理由は明確です。まず病院の待合室などで感染を拡大させないことが挙げられます。これは生活のあらゆる場面で注意しなければならないことですが、特に医療の現場では感染を拡大させないことが重要です。

次に内視鏡および使用した器具がウイルスに汚染され、感染源になることです。新型コロナウイルスは呼吸器系や口腔内にも存在することがわかっているので、上部内視鏡検査時では患者さんの咳き込みや嘔吐によるウイルスの拡散の可能性が高くなるのは納得できます。

さらに、大腸内視鏡ではガスの排出によるエアロゾル感染が危惧されます*2。では、なぜガスに気をつけなければならないのでしょうか。

新型コロナウイルスの増殖するところ

新型コロナウイルスがヒト細胞表面のACE2(タンパク質)を認識して細胞に侵入してくる様子

新型コロナウイルスが体のどこで増殖するのかを考えてみましょう。

新型コロナウイルスは細胞表面のACE2(Angiotensin-converting enzyme 2、アンジオテンシン変換酵素2)*3というタンパク質を認識して細胞に侵入していきます。ACE2は血圧を下げるなどの働きをするのですが、新型コロナウイルスの受容体としても使われてしまうのです。

ACE2 は体のほぼ全部の細胞に発現しています。最も発現量の多いのは精巣で、次に小腸です。口腔内で増殖した新型コロナウイルスが胃や十二指腸を通過して小腸に到達できたときには、ここでも増殖できるのです。実際に新型コロナウイルス感染症で亡くなった人のどの臓器からウイルスが検出されたかを明らかにした論文があり、呼吸器系と並んで腸管系や泌尿器系でも高濃度のウイルスが検出されています*4。

このように内視鏡が鼻腔や口腔内を通過するところでは、新型コロナウイルスが増殖していることがわかっていますので、内視鏡検査では呼気、唾液、吐瀉物、ガスなどが感染源になる可能性が十分にあります。。

部屋全体にも消毒の意識を


感染防護策のため防護服を着用した男女が隣同士に立っている様子

こうしたことから内視鏡での診察の際には、飛沫感染、接触感染だけではなく、空気感染も十分に考慮した感染防護策を講じる必要があります。

フェイスシールド付きマスク(もしくはゴーグル+マスク)、手袋、キャップ、ガウン(長袖)をしっかり着用することに加え、検査・治療終了後には、手指から肘までしっかりと消毒が求められます。

もちろん内視鏡や器具の殺菌消毒も欠かせません。新型コロナウイルス感染症が確定あるいは疑われる患者さんに対して内視鏡検査・治療を行わなければならない場合、または内視鏡施行後に感染が判明した場合は、空気感染へ配慮する必要がありますので、事後に内視鏡室そのものの消毒が必要になるということです。

またその際に使用した防護服は速やかに廃棄することも求められます。内視鏡室の換気については、必要換気回数(単位時間あたり、部屋の空気を何回入れ替えるべきかを示す指数。1時間あたりに部屋の容積<面積×天井高>に対してどれだけの空気が流入・流出すべきかにより算出される)を把握し、終了後の放置時間について施設内で検討しておくことも考えなければなりません。

厚生労働省が推奨する換気は「必要換気量(1人あたり毎時30 m3)が確保されていること*5」ですので、内視鏡室という密閉空間における換気には十分な配慮が必要です。

 

*1:日本消化器内視鏡学会 新型コロナウイルス感染症に関する消化器内視鏡診療についての Q&A, 2021年(改訂第7版)
*2:COVID-19: Gastrointestinal Manifestations and Potential Fecal-Oral Transmission, Editorial Gastroenterology, 2020 May;158(6):1518-1519.
*3:http://biogps.org/#goto=genereport&id=59272
*4:On the whereabouts of SARS-CoV-2 in the human body: A systematic review, PLoS Pathog, 2020 Oct 30;16(10):e1009037.
*5:厚生労働省『「換気の悪い密閉空間」を 改善するための換気の方法』


2022年5月(令和4年)

水谷哲也
東京農工大学農学部附属 感染症未来疫学研究センター 
センター長・教授 獣医師・博士(獣医学)

 

 

 

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