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ゾンビ映画のウイルスって? |学習ブログ|ASP Japan合同会社

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これまでに数多く製作されたゾンビ映画にはどんなものがあるでしょうか?

人々はゾンビから逃げまどい、これに噛まれた人が次々とゾンビになっていく。最後には、イケメンの主人公がゾンビと闘いながら、生き残った人々を助ける。ただ、どの映画でもゾンビはウイルスにより感染する設定になっているようです。

さて、今回はゾンビをウイルス学的見地から考察してみたいと思います。実は私はゾンビ映画が怖いのでこれまで数本しか観たことがありません。そんな私がゾンビ映画にツッコミを入れながら解説しますので、皆さんは私の文章にツッコミを入れながら気楽に読んでください

ゾンビ映画のウイルスはニュータイプ?

かつて、私が担当していたゼミ生の一人が「ゾンビは死んでいます。だからウイルスはゾンビの体内で増えることができません」という発表を行ったことがあり、「なるほど」と感心したことを思い出します。

そもそも、ウイルスは生きた細胞に感染する、という大前提があります。死んだ細胞ではリボソームなどの細胞の器官が壊れているためにウイルスは増殖できません。ということは、死んだ細胞の中でゾンビウイルスが増殖していたらゾンビ映画の設定はウイルス学的には間違いになります。ゾンビ映画のウイルス感染を肯定するとすれば、「死んだ細胞の中でも増えることができる新しいタイプ」のゾンビウイルスが発生したことが前提になるわけです。

ゾンビウイルスの特徴

ゾンビに噛まれた人はすぐにゾンビになります。このウイルス性疾患は急性感染症の部類に入ります。エボラ出血熱は潜伏期間が短いという印象がありますが、最短でも2日かかります(通常7日間)。潜伏期間は映画によって異なるかもしれませんが、私が観た数少ない映画では、噛まれた人は倒れてすぐにゾンビとして起き上がっていました。このゾンビウイルスの増殖はすさまじく速いことになります。

多くのウイルス感染症の発症の始まりは発熱です。ウイルスが体細胞に感染すると自然免疫を刺激して炎症性サイトカインを放出し、免疫細胞による攻撃が始まるので発熱が起こります。ゾンビは死んでいるので、おそらく発熱をしないばかりか体温は低下していくと考えられます。ウイルス性疾患の中にはノロウイルス感染症のようにほとんど発熱しないこともあります(子どもは発熱することがあります)。多くのウイルス感染症では発症すると寝込んでしまいますが、ゾンビは獲物を探してゆらゆらと歩きます。映画によっては生きているときよりも速く走るゾンビもいるようです。

ゾンビウイルスの発想の原点「狂犬病」

ゾンビウイルスの発想の原点はおそらく狂犬病ウイルスに違いありません。狂犬病では、犬にかまれる噛まれることによりウイルスが感染し、発症すると狂暴になります。

それでは、ゾンビウイルスと狂犬病ウイルスの違いはどこにあるのでしょうか。
ゾンビウイルスは噛まれると唾液中のウイルスが血中に入り、全身を駆け巡ると考えられます。

一方、狂犬病ウイルスは噛まれた筋肉で一度増えて神経に侵入して、ゆっくりと脳を目指して移動していきます。この差が発症までの時間に大きな違いを生んでいます。

狂犬病ウイルスは神経の中を移動するので免疫の攻撃から逃れることができます。したがって抗体ができません。つまり、狂犬病ウイルスが体内に侵入しているかを調べる検査法はありません。

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一方、ゾンビウイルスは全身の臓器を破壊すると考えられますので、抗体は産生されるはずですが、免疫細胞も死に絶えて抗体は産生されなくなると考えた方がよいでしょう。思いつきですが、ゾンビウイルスの最初の標的となる細胞は免疫細胞(T細胞やB細胞など)ではないでしょうか。これらの細胞を完全に破壊することにより血流に乗ったウイルスは免疫の攻撃を受けることなく全身の細胞に感染するのかもしれません。

今の状況は、ゾンビ映画のラストシーン?

ここまでゾンビウイルスをウイルス学的に解剖してきました。ゾンビはフィクションなのだから何を大上段に振りかぶっているのか、と冷ややかな眼差しを向ける方もいるでしょう。ところがゾンビ映画を現実に投影できる場面もあることを最後に語っておきましょう。

ゾンビ映画では、ワクチンが開発されて、大団円となるものもあるようです。「そんな簡単にワクチンが開発されるはずがない」とかつてはツッコミが入りそうなことでしたが、新型コロナウイルス感染症ではワクチンの開発から接種までを1年という短期間で達成しています。そして、わずか半年余りの間に全世界で多くの人が接種を受けています。いま、私たちの目の前で起こっている現象は、まさにゾンビ映画の最後の10分間の場面のようです。
これからさらにワクチンが普及して、新型コロナウイルスの終息に近づくことを願ってやみません。

2021年8月

水谷哲也
東京農工大学農学部附属 感染症未来疫学研究センター 
センター長・教授 獣医師・博士(獣医学)

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