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むむっ!痔を侮るなかれ~病気の早期発見のためにも~|学習ブログ|ASP Japan合同会社

痔の治療薬はセルフメディケーションの先駆け?
「肛門」という名詞を冠した私のクリニックには、日々、痔でお困りの患者さんが来院されます。
中には、デリケートな部位なだけに、来院を長いことためらわれ、症状が相当悪化した状態で来られる方も少なくありません。
ご存じの通り、痔は肛門周りの疾患の総称です。
多くは、肛門粘膜の炎症によって、かゆみや痛み、腫れ、出血を引き起こします。
症状が出ても、忙しくて病院に行けない、あるいは恥ずかしいといった理由で、市販薬に頼る方が多い疾患です。
近年のように、「セルフメディケーション」がしきりに推奨される以前から、テレビCMなどで誰もが耳にしたことのある商品があるのもそういった所以からでしょう。
「命には別状がなさそう」と感じて、自己判断で済ませてしまいがちな疾患ですが、果たしてそれで良いのだろうかと考えてしまいます。
痔もいろいろ、市販薬もいろいろ
痔の薬といえば、塗り薬を想像される方が多いのではないでしょうか。
2017年に発売された「ヘモリンド舌下錠」は、その名の通り口腔粘膜から肝臓を経ずに吸収させる剤型により、患部を直接触る抵抗感をなくしたことから、大ヒット商品になりました。
しかし、この薬はあくまでも「いぼ痔」専用で、「切れ痔」や「痔ろう」などには適用になっていません。
結局、市販薬の主役は相変わらず塗り薬なのですが、これも痔のタイプによって剤型や成分の正しい組み合わせが大切であることがどこまで理解されているのかを、いつも疑問に思っています。
いぼ痔において「外痔核」には軟膏が塗れても、「内痔核」には注入軟膏や座薬が必要です。
行き過ぎた自己判断の危うさ
ステロイドが入っている薬は効き目が強いので、痛みが軽減され「良くなっている」と勘違いされがちですが、2週間以上継続して使い続けると、新たに生まれ変わる粘膜を弱めてしまいます。
当然、クリニックでも2週間の処方を上限とし、それ以降は違う薬剤に切り替えるようにしています。
購入時に、薬剤師からきちんと説明を受けられる環境があればいいのですが、購入した薬剤だけを手にして、適応症や禁忌事項などをしっかり読み込んでもらえるほど、一般の方のヘルスリテラシーは育っていないのが現状かと思われます。
症状が進行した「痔ろう」の患者さんが自己判断で市販薬での対処を続けた結果、手術に至ったこともあります。
「痔」と一言でいっても、自分がどのタイプで、どの程度の状態なのかも正確にわからず、症状の改善もないまま市販薬を使い続けるのは危険であることは間違いありません。
専門医への相談はお早めに
市販薬を使っても2週間以上症状が改善しない、一度は治ったと思ったものの、再発するという方は、すぐにお近くの専門医を訪ねることをお勧めしたいところです。
そもそも腸内からの原因など、痔以外の病気であった場合は、治療が遅れてしまいかねません。
市販薬には短期のうちに症状を抑える役割程度を期待し、きちんと専門医がいる医療機関を受診することが重要です。
お尻のトラブルを患者さんの生活改善のきっかけに
痔の要因には、生活習慣が影響していると考えられます。この部分を改善しないと、健康を守ることは難しいでしょう。
ストレスや肉体疲労、腸内環境の悪化による便秘や下痢、過度な飲酒などは、痔のみならず、より深刻な病気の原因にもなり得ます。
実際、私のクリニックでは、痔をはじめとする「お尻のトラブル」で来院される方の約7割が下部内視鏡検査を受けられます。
痔の診察をきっかけに、「念の為の内視鏡検査」でがんを早期に発見できたケースも少なくありません。
セルフメディケーション時代にあって、正しい知識を持ち、専門医との連携を深めることが求められます。
2023年8月(令和5年)
白畑 敦(しらはた あつし)
消化器外科医。しらはた胃腸肛門クリニック横浜院長。山形県出身。
昭和大学医学部卒業後、大学病院や総合病院などで勤務したのち、現職。
日本外科学会、日本消化器外科学会、日本消化器内視鏡学会ほか専門医。趣味はワイン、柔道四段。