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あなたの手の美しさは「患者さんのため」のもの|学習ブログ|ASP Japan合同会社

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コロナ禍で加速した「手荒れ」問題

細菌やウイルスは、種類によって接触感染や飛沫感染、空気感染で伝播するものがありますが、ほとんどの病原体は接触によりうつります。

私たち医療従事者は、病気で免疫力の落ちた患者さんに触れなければ仕事になりません。そのため、他の職業に比べて常に手をきれいに保つことが求められ、「一処置一消毒」を遵守すべく手洗い・消毒を一般の方達とは桁違いの回数こなしています。

そこにきて今回のコロナ禍が重なり、日常生活も含めて手洗い・消毒の頻度が増大しました。
手指消毒を徹底することで避けられないのが、「手荒れ」です。医療機関で使用しているアルコール消毒剤は、保湿剤が含まれているものが多く、それによる手荒れの重症化は少なくなっているようですが、むしろ流水と石鹸を利用した手洗いに課題があります*1。

手袋をしていても、体液や排泄物などを扱った後は、流水での手洗いは必須なので、その度に手指の皮脂が奪われてしまいます。

ひとたび手荒れすると、アルコール消毒剤を使用する度にしみて痛みを感じるので、消毒を躊躇し、手指衛生を手洗いだけに頼らざるを得ず、ますます手が荒れていくという「手荒れ重症化の悪循環」を生み出します。

深くなった手荒れの傷には、さまざまな病原体が残りやすくなりますから、自分自身のみならず、手指を介して他者への感染、つまるところ院内感染の引き金にもなりかねないのです。

手荒れ重症化が引き起こす問題

 

今日、何回手を洗って、消毒液で手を擦りましたか?

さて、先日、探究心旺盛な私は、医局に着いてからどれだけのものを触って、何回手洗い、手指消毒をしたかカウントすることを試みましたが、想像以上の頻度にすぐに断念してしまいました(笑)。

これまで無意識に行ってきた動作がこれほどまでに多いことにも驚きましたし、私の手にもずいぶんと負担をかけてきたのだなと改めて気付かされました。

消化器外科医の私でも、診療や手術などで相当な頻度で手洗いと手指消毒を行っていますが、身近なところでは手術室で滅菌作業に携わる私のスタッフや、急性期の現場で働く方々などでは負担はより大きくなることでしょう。

病棟などで日々患者さんに直接触れる機会の多い看護師の方々は、その回数の多さはもちろん、シーツ交換など布に触れる時間が長いことなども加わり、手指の脂が完全に奪われてしまうと口にされます。

中には、関節や指先のあたりがパックリと割れてしまったり、指紋が無くなるなどの重篤な症状が認められたりする方もいらっしゃるそうで、これが離職原因になることもあると聞いたことがあります。

 

洗えども、洗えども、きれいにならず?じっと手を見る

先にお話しした通り、手荒れをすると、皮膚角質への微生物の侵入と増殖を起こしますので、医療関連感染を拡大する一因になります。

手荒れを放置し、悪化させると皮膚細菌叢を変化させ、傷に吸着した黄色ブドウ球菌が「バイオフィルム」を形成します*2。

「バイオフィルム」とは、細菌の集合体で、多糖・タンパク質・核酸から構成され、これが常在化すると殺菌剤やアルコール、次亜塩素酸などの効果を阻害する可能性もあり、業務上の感染のリスクが高まります。

また、黄色ブドウ球菌による毒素は手荒れを悪化させるという厄介な存在です。このバイオフィルムに残された病原体はやがて、触れたところなどに伝播し、感染を引き起こすことになるのです。

肌の傷に吸着した黄色ブドウ球菌が形成するバイオフィルム

皆さまはどんなハンドケアを心がけていますか?

施設でハンドクリームを共同使用した結果、手指の細菌数が減少したという事例や、職場の仲間でウェットラップ法を採用して効果を得られたことなど、看護師の方々の学会などでも多くの成果事例が紹介されているようです*3。

ただ、職場でのケアは限界があるので、日々の自宅での入念なケアが必要不可欠なことは間違いないようです。

ハンドケアをする女性-1

手洗い・手指消毒、そして何よりハンドケア

もっと、自分の手に関心を持ちましょう。自分の手が荒れることは、自分自身の感染のリスクを高めるだけでなく、院内感染のリスクまでも高めてしまうというわけです。
一般の方にも、手をきれいにするということが、「手を荒らさない」ことも含むのだという認識を皆さまと一緒に広げていきたいですね。

 



*1:Protective Efficacy against Skin Roughness of Alcohol-based Antiseptic Hand Gels, Japanese journal of environmental infections, 2008;23(4):280-4
*2:Small-Molecule-Induced Activation of Cellular Respiration Inhibits Biofilm Formation and Triggers Metabolic Remodeling in Staphylococcus aureus, mBio, 2022 Aug 30;13(4)
*3:「手荒れ対策、こうすれば大丈夫!」、『インフェクションコントロール』(2022)第31巻6号, pp.643-646


2023年1月(令和5年)

小川明子
順天堂大学卒業後、消化器外科医として働いたのち現在は外科医、総合内科医、往診医、産業医として従事。
プライマリケア学会指導医、日本外科学会専門医、日本消化器病学会指導医、在宅褥瘡管理者

 

 

 

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