感染管理情報

学習ブログ

過酸化水素の世界③ 過酸化水素が阻止するエマージングウイルスの出現 |学習ブログ|ASP Japan合同会社

過酸化水素の世界③ 過酸化水素が阻止するエマージングウイルスの出現 |学習ブログ|ASP Japan合同会社 サムネイル画像

氷河のウイルスが復活する

最近、ウイルス研究者の間で話題になった論文を紹介します*1

1万5千年前にチベットの氷の中に閉じ込められたウイルスが甦ったのです。そのウイルスの種類はなんと33種類、しかもそのうち28種類は未知のウイルスでした。

映画なら、チベットの山奥の村で村人たちが次々と謎の死を遂げ、という感じのオープニングになるところですが、実際には植物などに感染するウイルスであると考えられたので、ヒトや動物には感染しません。

この事実は世界中の氷冠や氷河には太古のウイルスが眠っていて、しかもその多くは未知のウイルス(絶滅したウイルス)である可能性が高いということです。そして、地球温暖化にともない氷が溶けると、我々の生活環境に侵入してヒトや動物に感染してくるかもしれません。

チベットで見つかったのは植物に感染するウイルスだから問題ないでしょ、と思っている方も多いことでしょう。しかし、ヘルペスウイルスは約4億年前、インフルエンザウイルスは約1億年前に誕生したと考えられており、これらのウイルスも氷の中に眠っていると考える方が妥当でしょう。

長い眠りから目覚めたウイルスは過酸化水素で退治するとして、氷の中のウイルスを蘇らせないためには、どんな技術の開発が必要なのでしょうか。今回は、過酸化水素が我々を未知のウイルスから救ってくれるかもしれないというお話です。

過酸化水素③-1

カーボンフリーの世の中へ

 

 地球温暖化は世界中の氷を溶かし続けています。たとえば北極ではこの30年間で100万km2に相当する海氷が溶けたという報告があります*2

その原因は石油などの化石燃料を使った火力発電が地球温暖化を促進したためといわれています。2021年に英国で開催された国連の気候変動会議(COP26)において、日本は2度目の「化石賞」という不名誉な賞を受賞してしまいました*3

世界からは化石燃料への取り組み方が甘いと評価されているのです。世の中はクリーンエネルギーを使う方向に急速に舵をとり始めています。クリーンエネルギーとは二酸化炭素や窒素酸化物を排出しないエネルギーのことをいいます。

具体的には太陽光発電、水力発電、風力発電、バイオマス発電、地熱発電、そして水素エネルギーもそのひとつです。日常の生活や経済活動に水素が浸透した社会のことを水素社会といいます。

経産省は「水素・燃料電池戦略ロードマップ」を定めて2019年からフェーズ1を再スタートさせました*4。2040年ころのフェーズ3では二酸化炭素フリー水素供給システムを確立させるという目標を掲げています。このように世の中は脱炭素(カーボンフリー)の方向に進んでいます。

水素が生むエネルギー

どうして水素からエネルギーができるのか不思議に思いませんか?

ここで水素が何者なのかを復習しておきましょう。水素は全宇宙の元素の90%を占めるとされています。水のもと(素)だから水素なので、地球ではH2O(水)として大量に存在しています。

一方で、地球を覆う大気の中に水素はほとんど含まれていません。その理由は水素が軽すぎるからです。大気中に大量に存在する酸素や窒素と異なり、水素は水などの物質から取り出さなければならないのです。取り出した水素は酸素と反応させることにより、エネルギーと水になります。

ものすごくクリーンなエネルギーのイメージですね。

日本は挽回する

過酸化水素③-2

「化石賞」を受賞してしまった日本ですが、その一方で研究者たちは化石燃料に代わる水素エネルギーを開発しています。

その中でも水素燃料エンジンが注目され実用化され始めています。トヨタ自動車が水素エンジンを搭載した自動車の販売を開始していることは、テレビのCMなどでご覧になったことがあるかもしれません。水素を閉じこめておける化合物は何か、その化合物から簡単に安全に水素を取り出してエネルギーに変換する方法が開発されています。

さあ、いよいよ過酸化水素の登場です。過酸化水素は酸素分子と同じ数の水素分子を持っています。つまり過酸化水素は水素燃料として活用できるので、エネルギーキャリアーとして注目が高まっているのです。そのため、安価で大量に過酸化水素をつくる方法や過酸化水素から水素を発生させる方法の研究が盛んになっています。

九州工業大学は太陽光の光触媒を使い、酸素と水から過酸化水素を生成する技術を開発しました*5。この技術により過酸化水素水をエネルギー源として運び、使うことができるようになります。そして大阪大学のグループは、これも太陽光を使った光触媒技術で過酸化水素から水素を生成する技術を確立しました*6

この2つの技術を組み合わせることにより、無限に降り注ぐ太陽光を利用した安全安心な水素エネルギーを生み出すことができるのです。このほかにも世界中で多くの技術開発が行われており、相当量の研究エネルギーが使われています。

改名した方がいいかも?

過酸化水素③-3

世界中の氷の中に眠っている未知のウイルスを復活させないための切り札のひとつが過酸化水素であることがお分かりいただけましたでしょうか。

3回にわたり過酸化水素についてのお話をしてまいりました。過酸化水素はオキシドールとして使われていることは多くの人が知っていますが、病院で安全な滅菌方法として使われていることや、次世代エネルギー源として期待されていることには驚きだったのではないでしょうか。

もしかすると、今後さらに過酸化水素の新しい使われ方が発見されるかもしれません。過酸化水素という漢字はちょっと古く重いイメージです。ハイドロジェンパーオキサイド(hydrogen peroxide)と呼ぶようにすると、なんだかすごいことができるようなモノを連想できませんか。

 



*1:Glacier ice archives nearly 15,000-year-old microbes and phages. Microbiome. 2021 Jul 20;9(1):160.
*2:https://www.jccca.org/cop/cop10/cop10_06
*3:https://www.wwf.or.jp/staffblog/activity/4734.html
*4:https://www.meti.go.jp/press/2018/03/20190312001/20190312001.html
*5:https://www.kyutech.ac.jp/whats-new/press/entry-8277.html
*6:https://resou.osaka-u.ac.jp/ja/research/2020/20200707_1


2022年1月(令和4年)

水谷哲也
東京農工大学農学部附属 感染症未来疫学研究センター 
センター長・教授 獣医師・博士(獣医学)

 

過酸化水素を用いた滅菌器はこちら

関連コンテンツ

製品についてのお問い合わせ

ASPコールセンター(フリーダイヤル)

0120-306-580

メールでのお問い合わせ

フォームから問い合わせをする

ASP Japan All in One アプリ

ASP Japanの製品やサービスを
より便利なものにする公式スマートフォンアプリです。

ASPアプリをリクエスト

ASP Japan メールマガジン

ASP Japanから感染管理に関する
最新情報を定期的にメールでお届けします。

メールマガジン登録フォームへ