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ウイルスも古代から命をつないでいる |学習ブログ|ASP Japan合同会社

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多くのウイルス研究者は、長い研究生活の道のりの途中で「いつウイルスが誕生したのか?」について思いを巡らせます。私の場合も、この5年間はそんな考えに取り憑かれています。

ウイルス学はヒトや動物が病気になったり、亡くなったりする原因を探る学問なので、ときにはロマンあふれるウイルス学の研究をしたくなるものです。今回は、ウイルスの起源についてのお話です。

コロナやエボラの誕生

まず、最近の研究からわかってきたことからご紹介しましょう。現在、私たちを悩ませているウイルスはいったいいつごろ出現したのでしょうか。分子時計(モレキュラークロック)の研究がそれを明らかにしてくれます。

たとえば、エボラ出血熱ウイルスに代表されるフィロウイルス科は約1万年前に誕生したといわれています。そのウイルスから約800年前にエボラ出血熱ウイルスが出てきました。

そういえば、現在、私たちをもっとも悩ませている新型コロナウイルスの祖先のコロナウイルス科も約1万年前に誕生したと計算されています。実はこの1万年前(紀元前8000年)に人類に感染するウイルスが誕生したのには大きな理由があるのです。

 

人獣共通感染症の始まり

今から1万年前の地球は旧石器時代から新石器時代への移行期にあたります。人類は住処を定着するため、また、動物性たんぱく質を安定して確保するために野生動物を家畜化した時期なのです。このころ私たちの祖先が牛や豚を家畜化してくれたおかげで、今の私たちの食生活が成り立っているのです。

その一方で、家畜とヒトの距離が近くなったために、野生動物が感染していたウイルスや細菌がヒトに感染しやすくなってしまいました。これが人獣共通感染症の始まりです。

そんな背景をもとにフィロウイルスやコロナウイルスが誕生してきたのです。

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カンブリア爆発とウイルス爆誕

そのほかのウイルスについても見てみましょう。サルのレトロウイルス(SIV)は約3万2000年前に出現し、1910~1950年頃にHIV-1に変異したといわれています。B型肝炎ウイルスは4億年以上前 に誕生し、恐竜も感染していたのではないかと考えられています。

ヘルペスウイルスも約4億年前にこの世に出現して、HSV-Iは600万年前、HSV-IIは160万年前に誕生したといわれています。4億年前の地球はどんな様子だったのでしょうか。5億4200万年前から5億3000万年前にカンブリア爆発が起こりました。カンブリア爆発により生物は多様化しました。

その後、4億3000年前に生物の大量絶滅を経験しています。超新星の爆発によるガンマ線バースト仮説は有名です。このような環境の大きな変化がウイルスの誕生を促したのかもしれません。二酸化炭素の上昇とともに節足動物や植物が上陸を果たしていったのもこの頃です。

 

 

三葉虫に感染するヘルペスウイルス?

4億年前の地球は古生代のデボン紀にあたります。この頃に誕生したヘルペスウイルスはどんな生物に感染していたのでしょうか。感染した証拠はなかなか見つかりませんので、想像を巡らせてみましょう。

海には三葉虫やウミユリ、オウムガイ、アンモナイトなどが生活していました。また、シーラカンスなどのハイギョの祖先もこのころに誕生したといわれています。サメも泳いでいたと考えられています。陸上ではデボン紀の前のシルル紀からムカデの祖先となる節足動物が繁殖していて、その他の原始的な昆虫も生活していました。

このような生物たちにヘルペスウイルスやフィロウイルスの祖先は感染していたのでしょうか。現在も鯉に感染するコイヘルペスは大きな問題になっています。デボン紀のハイギョなどにヘルペスウイルスが感染していたと考えるのは妥当でしょう。生物が進化しながら命をつないできたように、ウイルスも感染して変異しながら現在の姿になったと考えると感慨深いものがあります。

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まだまださかのぼれるウイルスの誕生日

それでは、ウイルスのアダムとイブはいつごろ誕生したのでしょうか。時代はさらにさかのぼります。地球では約30億年前に共通祖先から3つのドメイン(細菌、古細菌、真核生物)が次々に分かれていったと考えられています。3つのドメインの生物には正二十面体のウイルスが感染しています。

たとえば、細菌にはPRD1というウイルス、古細菌にはSTIV-1、植物にはクロレラウイルス、動物にはアデノウイルスが感染しています。正二十面体は正三角形を幾何学的に20個組み合わせた球形に近い形をしています。この構造はウイルス進化の過程においても安定といわれています。

したがって、3つのドメインの共通祖先にも正二十面体のウイルスが感染していたと考えると、なんだかすっきりします。そうです、今の学説では30億年前にウイルスが誕生したことになっているのです。

日本でも新型コロナウイルス感染症に対するアデノウイルスベクターワクチン(アストラゼネカ社)の接種が始まりました。ワクチンを接種されるときに、古代から連綿と続くアデノウイルスのことを思い出して腕をまくってみましょう。

 

※正二十面体とアデノウイルスを比較した模式図

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水谷哲也
東京農工大学農学部附属 感染症未来疫学研究センター 
センター長・教授 獣医師・博士(獣医学)

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