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過酸化水素は太古から働いていた|学習ブログ|ASP Japan合同会社

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リグニンを分解せよ

陸地を覆い、生態系を守りながら長い歴史を生きてきた樹木たち。樹木の細胞は糖類とリグニンのふたつからできています。

リグニンは樹木が立てるような強度をつくり、同時に樹木を微生物から守ってきました。リグニンは木が成長する早い段階から作られ、セルロースなどと強く結合することによって、木の組織が強固になっていきます。

そして、雨風にも耐えられるようになります。古代、海の中でゆらゆらしていた植物が陸へ上がったとき、自分を支えるためにリグニンを作るという能力を獲得したと考えられています。樹齢何百年と推定される巨大な樹木が立っていられるのはリグニンがあるからです。

木材を家などに使うときにはリグニンの存在が役に立っています。その一方で、私たちが木材を紙にするときにはリグニンを分解してセルロースを取り出す必要があります。このとき過酸化水素が大活躍します。

今回はリグニンと過酸化水素のフシギな関係に迫ります。

樹木の組織を強固にするリグニン-1

リグニンを分解する菌類


リグニンに強く結合しているセルロースは紙の原料になるパルプの主要な成分です。パルプを作る過程でリグニンを分解して取り除く必要があります。

現在、リグニンは硫酸などの薬品処理で分解できるのですが、自然に分解される方法のほうが良いことはいうまでもありません。しかし、自然界でリグニンを分解できるのは白色腐朽菌(はくしょくふきゅうきん)だけです。

もし、白色腐朽菌がいなければ、この世界は朽ちない木材で溢れかえっていたことでしょう。植物はシルル紀(約4億4370万年前~4億1600万年前)にリグニンを合成できるようになり、白色腐朽菌は石炭紀末期(約2億9000年前頃)にリグニンを分解できる能力を獲得したとされています。

そうすると、この期間(約1億数千万年間)は木材が朽ちないまま蓄積されていったことになります。その一方で、この期間は人類の利用するエネルギーにとっては非常に重要な役割を果たしました。

地上に溢れかえった木材はやがて石炭になっていったからです。ともあれ、白色腐朽菌がリグニンを分解できるようになったおかげで、地球は木材に占拠されずに済んだのです。

過酸化水素がカギとなる

白色腐朽菌という字面から、モコモコした白い菌のカタマリを想像されるかもしれませんが、白色腐朽菌は私たちの身近なキノコです。代表的な白色腐朽菌はシイタケ、なめこ、エノキタケです。
 
サルノコシカケに代表される褐色腐朽菌というキノコもあり、こちらはリグニンを分解できないとされています。白色腐朽菌は木材の中へ菌糸を侵入させて、リグニンを分解します。リグニンを分解する酵素の主役はペルオキシダーゼです*1。白色腐朽菌は進化の過程でペルオキシダーゼを強化していきましたが、逆にペルオキシダーゼ遺伝子を欠落させていったのが褐色腐朽菌と考えられています*2。
 
リグニンを分解できるペルオキシダーゼは過酸化水素を必要としています。そして、過酸化水素も白色腐朽菌自身が作り出しているのです。
 
シイタケなどの白色腐朽菌がリグニンを分解する様子

普段、わたしたちが食べているリグニン

 
今回は、過酸化水素が少なくとも2億9000万年前から活躍していたというお話でした。白色腐朽菌が過酸化水素を利用してリグニンを分解する一方で、私たちは食料としてリグニンを食べていることも付け加えておきましょう。
 
リグニンが多く含まれている食品には、豆類、ココアやチョコレート(カカオ豆)、いちご(種子の部分)、ピーナッツ、ふすまなどがあります。リグニンはセルロースやキチンなどとともに水に溶けない食物繊維の代表です*3。
 
ここまで読んでくださった方は、リグニンの性質から食物繊維が腸でどのように働いているか想像できると思います。リグニンは私たちの体の消化酵素で分解できないので、胃や腸で水分を吸収して膨らみます。
 
これが腸を刺激して蠕動運動を活発にするので、便秘に効くのです。
 
女性がリグニンを多く含むチョコレート・いちご・ピーナッツを食べる様子
 
 
 
*1:The Paleozoic origin of enzymatic lignin decomposition reconstructed from 31 fungal genomes, Science, 2012 Jun;336(6089):1715-9.
*2: Genome, transcriptome, and secretome analysis of wood decay fungus postia placenta supports unique mechanisms of lignocellulose conversion, Proc Natl Acad Sci USA, 2009 Feb;106(6):1954-9.
*3:Carbohydrate-binding domains: multiplicity of biological roles, Appl Microbiol Biotechnol, 2010 Feb;85(5):1241-9.

2022年7月(令和4年)

水谷哲也
東京農工大学農学部附属 感染症未来疫学研究センター
センター長・教授 獣医師・博士(獣医学)

 

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