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メスを使う外科医は不要?

こんにちは、しらはた胃腸肛門クリニックの白畑です。

前回は「A I内視鏡」の可能性についてお伝えしましたが、今回は消化器外科領域でトレンドになっている「ロボット治療」について考えてみたいと思います。

 

「ロボット手術」は低侵襲手術の究極のカタチ

ご存じの通り、消化器領域では内視鏡外科手術の適用範囲がますます広がり、ちょっとした病気での開腹手術は減少し続けています。

患者さんにとって負担の少ない手術は、ご本人はもちろん、切迫する医療経済を救う上でも良いこと尽くめの技術といえるでしょう。

最近ではここに内視鏡手術用のロボットが加わり、さらなる「低侵襲」への期待が高まっているわけです。

内視鏡手術用ロボットを操作する様子

この手術ロボットが誕生するきっかけとなったのは、1991年の湾岸戦争の頃。

米国本土や空母にいる医師が戦場の負傷兵の手術を「遠隔操作」で行える機器を米軍主導で開発を始めたものの、湾岸戦争が思わず早く終結します。

その結果、軍から民間に技術が移転し、1999年に完成し、翌年にはFDAに承認されます。

同年、日本でも導入、治験が始まり、承認を経て、2012年に保険収載されて以降、適応範囲は広がり続け、大手病院でも積極的な導入が進み消化器外科の領域でも多くの患者さんがその恩恵を受けられるようなっています*。

ご存じの通り、挿入されたロボットアーム先の鉗子が人間の手首以上の可動域と柔軟性を備え、腹腔鏡手術のような動作制限が生じないということで、周辺組織を傷つけずに最小限の部位を切除することが可能になったわけです。

結果、手術後の回復も早く、この技術による症例が増え、進化を続けることは、本当に喜ばしいことです。

メスを置く外科医の増加

一方、「外科医という職業」の観点から、少し違った角度から考えてみたいことがあります。

近年、若い世代の外科医は内視鏡手術の実績を積み重ねる機会が多くなりました。今度はそこに「ロボット」が加わってきました。

その技術習得に血道を上げる次世代の医師たちの活躍は医療の進化においては喜ばしいことです。

これに反して開腹手術は、滅多にお目にかかれないケースになり、「メスを置く外科医」の時代が迫っている感もあります。

腹腔鏡とロボットをどちらも経験した人によれば後者の方が実際の手術と感覚が似ているともいいます。

ただ、実際の手術と違うことが一点あります。それは、手術中に何かあった時の対処です。

手術の現場というのは常に何が起こるかわからない。内視鏡下であってもロボットのそれであっても手術の最中にイベントが起きた時、(あまり考えたくないことですが)その場に、内視鏡手術の経験が豊富でも、開腹手術経験のほとんどない医師しかいなかったらどうなるのか。

本来ではあり得ない術中死亡が起きないのだろうか。

手術現場では、「自分やったことないので、どうぞ」では洒落にならない。

白衣を着た医師が譲り合っている様子

余談ですが、2000年代前半に大学を卒業した自分でも、外科医として不可欠な「糸縛り(結紮)」の練習に日々明け暮れたものです。

不要になった糸をあちこちに結んでいたので、ドアノブや机などが糸だらけになっていたことを思い出します。

今はクリップのような便利なものがありますから、糸縛りは要らないし、当然練習も不要になる。

クリップを使った結紮の練習風景

 

ロボットによる手術は本当に素晴らしい技術ですが、試合数豊富なベテランドクターが経験と勘で患者さんの命を救ってきたことも忘れてはならないと思います。

咄嗟の判断で、「腹を開けよう」という土壇場の決断は、修羅場をくぐった医師だからこそできることも多いかもしれません。

これからを担う若い先生方にも、ぜひ、こうした過去の技術と向き合う機会が多く与えられることを願っています。

 

 


*:厚生労働省「中央社会保険医療協議会総会(第219回)議事次第」

2023年5月(令和5年)
白畑 敦(しらはたあつし)
消化器外科医。しらはた胃腸肛門クリニック横浜院長。山形県出身。
昭和大学医学部卒業後、大学病院や総合病院などで勤務したのち、現職。
日本外科学会、日本消化器外科学会、日本消化器内視鏡学会ほか専門医。趣味はワイン、柔道四段。

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